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「TOKYO!」(2008)

1ポスター

ポン・ジュノ監督作をほぼ観終わって、この作品を選びました。本作はミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノという3人の監督が、東京の街を独自の視点で描くオムニバス作ということで、まさにコロナ禍、オリンピック組織委会長問題で揺れる今、観るべき作品だと挑んでみました。ゴンドリー監督は本作が初めて、カラックス監督作は「ボンヌフの恋人」(’91)のみです。

それぞれの作品タイトル:
■ミシェル・ゴンドリー監督:生きることに思い悩む女性の体が徐々に木になっていく「TOKYO!/インテリア・デザイン」
■カラックス監督:水道から現れる謎の怪人が街を恐怖に陥れる「TOKYO!/メルド」
■ポン・ジュノ監督:10年間引きこもっていた男が、恋する女性を追って外界に足を踏み出す「TOKYO!/シェイキング東京」

各々が30分程度の作品ですから、作品の感じ方は大きく観る人次第で、何を語っているのかな?と想像逞しくして楽しみました。
監督は“自作の色彩”をしっかり出しながら、大きな視点で東京を見てくれ、それでいて辛辣でした!
いずれの作品も謎が一杯でしたが、ぐっと胸を刺す忠告がカラックス監督、ユーモアたっぷりに夢をくれたのがポン・ジュノ監督、しかり東京を見て嘆いてくれたのがゴンドリー監督???
いずれの作品からも、「日本は内向的だ!」と、もっと外に開かれた社会を目指さないといけないと思いました。

「TOKYO!/メルド」
出演者:ドゥニ・ラバン、ジャン=フランソワ・バルメール、石橋蓮司、他。
3糞

突然銀座にドゥニ・ラバン扮するゾンビがゴジラのマーチに合わせマンホールから這い出して、手当たり次第通行人を攻撃し、花菜とお札を求めて闊歩し市民を驚かせる。警察に追われて地下道に潜り、旧軍の残した手榴弾で、東京の各所に出現してテロ攻撃、“下水道の怪人”と称される。警察に捕えられるが、この男の話す言葉がわからない。唯一言葉の分かるフランスの弁護士ボランズの通訳のもと裁判を実施。名前はメルド(糞)だという。(笑)テロの目的を糺すと「罪のない人が好きでない。人間が好きでない。自分は生きることが好きだ。日本人は汚らわしい!日本人の目は女性のあれに似ているから」「母が聖女でお前たちみんなで犯したから、私はお前たちの息子だ」とよく分からないことをいう。(笑) 法廷の外には裁判を擁護、反対派が現れ大混乱。判決は「死刑」だった。

3年後、突然に刑を執行。絞首刑だった!検視官たちが去ろうとすると、メルドが生き返り「次はニューヨーク公演だ」という。(笑)
                *
菜っ葉服と義眼がよく似合うドゥニ・ラバンの熱演でカラックス監督の描く世界に入り込めます!
メルドの出現で、政府は海外の渡航を突然制限し、赤いひげの外人が襲われる事件が頻発する。そして3年後に突然に絞首刑執行。日本人の人権に対する姿勢が問われ、また地下水道に眠る戦車や日章旗が描かれることから、日本人は大きな戦争犯罪を犯しながら俺のやった小さな殺人罪を問えるのかと言っているように感じられるのですが? 花と札束は増えたが人として大きく育ってないと言っているように!

「TOKYO!/インテリア・デザイン」
出演者:藤谷文子、加瀬亮、伊藤歩、大森南朋、でんでん、妻夫木聡、他。
2木材デザイナー

大雨が続き約100万人が避難しているという夜、映画監督志望のアキラとその恋人ヒロコが車で、東京の友人アケミのアパートに、東京での職が見つかるまでと訪ねてきた。アケミのアパートはひと間で風呂はなかった。駐車場は中古家具店の前(閉店中)を厳守するように言う。アケミは「大きな会社に勤める者は小さなアパートに住む」という見栄っ張り子だった。
翌朝、ヒロコが暗いうちに起きると、もうアケミは出勤していた。アキラとヒロミはアパーツ探しに走るが、モダンなアパートを紹介されるが猫の死骸がベランダにあったり、借賃が高すぎる。仕事探しもラッピング程度の仕事で、採用されたのはアキラだけで、ヒロミは手先が不器用でダメだった。その後もアパートは見つからず、おまけに駐車違反でどこかに車を移動されてしまった。
何とか車を探し出してフィルムを取り出して映画試写会は実施出来たが、アキラは持て囃され、ヒロコは孤独感を感じる。
アケミに嫌味を言われアパートを追われるように出た。ヒロコは腹を空かせて職探しに出て、足が、腕が棒木となり、椅子となっていった。(笑)

夜中に音楽家(大森南朋)が座って、座り心地を確認して家に持って帰った。ヒロコは音楽家に座って仕事をしてもらい、彼が居なくなると、風呂入り、好きなことをしている。こんなに自分が役に立つとは思わなかったという。
               
大雨の中での車の渋滞、車のウインドウから見る東京の街並み、猥雑な東京の街がよく描かれた、美しい映像だった。狭いアケミのアパート。アケミの仕事っぷりや薄っぺらな人との関係、大量の駐車違反車の集積所。現実をしっかり見て東京の住み難さをよく描いています。ヒロコがここで住むためには、椅子となって、人の役に立ち好きなことができると満足していますが、若い人がこれで良いのでしょうか?

「TOKYO!/シェイキング東京」
出演者:香川照之、蒼井優、竹中直人、荒川良々、他。
4ピザ

私(香川照之)はひとり暮らしで10年間、TVも観ず世間と付き合わず、父から送金を受けて働かず、引きこもりしている。そのせいか、部屋はしっかり整理されて見事です。十年分のピザ箱が積み上げられている。土曜日にピザをデリバリーしてもらうぐらいで人に会うことはない。運動を兼ねてご飯は立って食べる!うんこはロール紙の芯で手に痣が出来るほどに時間を掛けて、よい夢を見る!(笑)

ある土曜日、可愛い女の子(蒼井優)がザを配達してくれた。11年ぶりに目を合わせた!ぐらぐらと胸騒ぎがしたが、地震だった!彼女が失神。どうしていいのか分からなかったが、腕にいくつものボタン(針のつぼ)が書いてある。ガーターにも絵が描いてある。ボタンを押すと彼女は「完璧!」と立ち上がり、帰っていった。
もう一度彼女に会いたいと2日間考えて、ピザ店に電話すると店長(がやってきて、配達員が皆引きこもりだという。
自分で出掛けるしかないと、白いスニーカーで外にでた。眩しい!渋谷のスクランブル交差点にも誰ひとり人がいない。ピザはロボットによって配達されていた。
地震が起きると一斉に人が建物から出てきて道路は一杯になるが、地震が収まるとまた人がいなくなる。
家にいる彼女を見つけて「今出ないと、一生出れないよ!」と呼び出し、LOVEのボタンを押すと彼女がうれしように笑った!するとまた地震!
                *
会話がほとんどないが、香川照之さんの仕草で孤独の寂しさ、不安、彼女に会ったときの驚き、喜びが分かるという、ユーモアたっぷりの演出でした。ピザにスニーカーは監督作では定番のグッズ。めっちゃめちゃに可愛い蒼井ちゃん!ペ・ドゥナ以上でした!
ポン・ジュノ監督にとって日本人は優秀で、地震が発生すれば一斉に同じ行動がとれが、引っ込み思案な国民。広い世界に出てきなさいという監督のエールだと思っています。まるで天岩戸神話のようでした!
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「あの頃。」(2020)“一生ものの友”と“心の休まるところ”がある青春!

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今泉力哉監督作ということで楽しみにしていました。いろいろな愛の形、片思いをユーモアをもって描き愛の本質を問うてくれますが、本作では“ハロー!プロジェクト”に魅せられ、アイドルに青春のすべてを捧げ、仲間たちと熱く語り合ったアイドルオタクたちのバカバカしくもかけがえのない日々が描かれます。 

アイドルオタクのバカバカしい話どころか、宇佐見りんさんの著書「推し、燃ゆ」が芥川賞を受賞するという、今日ではしっかり社会に認められるに至っている話なんです!(笑)

原作は劔樹人さんの自伝的コミック「あの頃。男子かしまし物語」、未読です。
脚本は「素敵なダイナマイトスキャンダル」の富永昌敬さん、撮影は「愛がなんだ」「いちごの歌」の岩永洋さんです。これは観ないわけにはいきません!

出演者は松坂桃李・仲野太賀・山中崇・若葉竜也・芹澤興人・コカドケンタロウ・大下ヒロト・木口健太・中田青渚さん、他。

前段でアイドルオタクのバカバカしさ?を笑って、後段でオタクたちの友情に泣いて、ラストで「あのころ。」が在って今の俺があるんだ!と思わせてくれるユーモアがあって、切なくて、暖かい作品でした。

ハロプロオタク6人の面子。最初は胡散臭いやつらだと思っていましたが、ラストでは名前も性格もしっかり覚えて、みんな愛すべきやつらで、もっと観ていたいと思わせてくれるような作品でした!出演者のみなさん、それほどに演技が嵌っていました!

あらすじ(ねたばれ):
2004年、大坂。音楽を志す劔樹人(松坂桃李)はバンドチーフから「アルバイに一生懸命でこっちがダメ」とダメ出しされて、自室に篭っているところに「これでも観ておけ」とDVDが差し入れられた。これが「松浦あやの“桃色片思い”」だった。観たとたんに口ずさみ涙が出てきた。好きなことに没頭せよ!です。自転車CDショップに走り、「ハロー!プロジェクト」に彩られたコーナーを物色していると、店員のナカウチ(芹澤興人)が「見て!」と「ハロプロあべの支部」のイベントちらしを差し出した。

劔は早速ライブホール“白鯨”で行われるイベントに参加してこのバカバカしいオタクトークの「男の最高の趣味や!」に笑った!終わって、「打ち上げ会に!」と誘われ、居酒屋でまたまたオタクの話をきく。最初に「挨拶せい!」と声を掛けてくれたのがコズミン(仲野太賀)だった。石川梨華推しのヒロ(山中崇)がリーダーだという男たち6人。実際は誰がリーダーなのか分からない連中だった。
3出会い

イトウ(コカドケンタロウ)の部屋に集まり、ライブイベントのDVD鑑賞や推しアイドルの話。劔はオタクグッズの製作を一手に引き受けている西野(若葉竜也)から「お前はこれ!」と松浦あやのポスターを貰い、嬉しくて自室に飾り、グッズを揃えた。
4グッズ

支部のイベントに大学の女友達、奈緒(片山友布)と靖子(中田青渚)を誘った。これが縁で大学祭に参加することになった。「無職のおっさんの集まりでこんなイベントは受けん!」と思っていたところ、大受け!もうそんな時代だったんだ!メンバーは大喜びで、学生と一緒に藤本美貴の「ロマンチック浮かれモード」を唄って大盛り上がりだった。(笑)
メンバーはもう一心同体、風呂に入って盛り上がった。「俺たちには卒業式はない!中学10年生がずっと続けばいい!」と、こんな集まりだった!

コズミンに「目を見て、ありがとうと言って来い!」と松浦あやの握手会に行くよう勧められた。劔はあや(山崎夢羽)に会った。しかし何か物足りなさを感じた!「俺は音楽と向き合うことから避けていた」と気付いた。

メンバーにバンドやることを提案し、西野の知合いで藤本美貴推しのアール(大下ヒロト)を加え7人の「恋愛研究会」というバンドを作った。イベントでは揃いのキャップとTシャツでモーニング娘の「恋ING」を熱唱し遅い青春を謳歌していた。

5大学祭

劔は石川梨華の卒業コンサートに参加し、「これで卒業です!」という姿に感動し「梨華ちゃん!」と声を出して応援し、涙した。「アイドルには卒業があるのか!俺は・・」と思った。
チケットを贈ってくれた中学校の先生(西田尚美)には「素敵な卒業式でしたね。また!」と声を掛けられ、握手して別れた。アイドルの卒業式には摩訶不思議な魅力があるんだ!

コズミンがアールの恋人奈緒にちょっかい出したことで、メンバーも絡んで揉めに揉めたが、イベントトークで コズミンのみっともない「スイマセンデシタ」という謝罪で決着した!メンバー全員が絡んで決着したところがいい。(笑) 

こんな日々が流れるなかで、それぞれが人生の中でハロプロと同じくらいの大切なものを見つけていった。

2008年、東京。劔はナカウチの勧めで一緒に東京に出てきて、ライブハウスで働きながらベーシストとしての音楽活動を開始していた。
6東京

バンドメンバーに正式に加えられた日、コズミンのネット呟きで、ガンであることを知った。「あいつは何している?」と思った。
コズミンは相変わらずのアイドルオタクで、風俗店でガンをネタに値切っていた。(笑) メンバーが駆けつけ本人の望を聞いて、恋愛研究会イベントで生前葬を行い、本人が望むブロンズ像を贈ることになった。ずっとオタクでいたいらしい!

当日、コズミンは松場杖でやってきて白装束で、定番の「恋ING」をボーカルとして熱唱した。そして棺に入り「人生で一番楽しいのは、皆で過ごしたあの頃。切なかった!東京で何してる?アイドルは幾つになっても可愛い!」という。劔はこれを聞いて泣いた!

コズミンの最期は看護師にイヤホーンを着けてもらって「恋ING」を聞きながら逝ってしまった。

感想:
好きなことに熱中し、そこで知り合った仲間たちとの“あの頃”。後段のアイドルオタクのままのコズミンとアイドルオタクを卒業した他のメンバーが生前葬で“あの頃”の想いを語るシーン。これがテーマでした!
アイドルオタクのままのコズミンの人生はつまらないものであったのかと言うと決してそうではない。今の時代にこんな葬儀を行って貰える人は珍しいでしょう。僅かな時間ではあったが一生ものの友を得て、心の休まるところがあるという、アイドルオタクであったが故の、すばらしい人生であったと思います。

アイドルを終えて次の人生に向かっている劔たち。メンバーの名前を聞けばあの頃を思い出し、今が一番楽しいと感じ、“あの頃”が励みになるという未来に繋がる“あの頃”、いずれにとっても忘れられない青春の記憶です。

このまま続いて欲しいと思えるハロプロあべの支部の6人。まさか松坂さんがと思わせてくれるオタク化けぶりがすばらしい。次の推しが仲野さん。短気でけちなお騒がせオタクであったが、後半では主役に躍り出て、精一杯オタクで生きる姿は、愛しい人生を全うしたいと願う気持ちが伝わる演技でした。「すばらしき世界」に次ぐ本作で、大きな俳優さんに育ったなと思いました。
もうひとり終始松坂さんと行動するナカウチ役の芹澤さんの暖かい雰囲気が、“オタク”と言う莫れと作品の品格を保証しています!(笑)

私のブログ説明「宮﨑あおいさんを応援します」。この面子と同じ想いです!(笑)このころ。2005年、NANAに嵌りました!そして「純きら」、「篤姫」・・。 “推し“の意義をしっかり描いてくれた作品、すばらしい作品でした。
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「ヘレディタリー 継承」(2018)ミニチュアで作った物語が現実になっていく家族崩壊物語!

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アリ・アスター監督に長編レビュー作、“現代ホラーの原点”と言われる話題作をWOWOWで観賞しました。祖母の死をきっかけに、さまざまな恐怖に見舞われて崩壊していく一家を描いたホラー作品です。
ホラー作品をあまり観ないのでホラー作品のなかでの評価づけをすることはできませんが、観た後に尾を引くという恐怖の重さとストーリーの緻密さ、深みに圧倒されました。絶賛されているとおりの素晴らしい作品です。「ミッドサマー」(2020)に繋がる作品になっていて、観ておくべき作品だと思います。

家系の中に流れる血の秘密を隠して家族が崩壊する様に、家族にとって生きていくなかで何が大切かを感じました。

監督・脚本:アリ・アスター、撮影:パウエパヴェウ・ポゴジェスキー、音楽:コリン・ステットソン。
出演者:トニ・コレット、ミリー・シャピロ、アレックス・ウルフ、アン・ダウト、ガブリエル・バーン、他。

ねたばれを見ないで観賞することをお勧めします。

あらすじ(ねたばれ):
2018年4月3日、長い闘病生活の末、エレン・リーは78歳で娘アニー(トニ・コレット)の家で死去。夫と長男はすでに故人。娘の夫はスティーブ・グラハム博士(ガブリエル・バーン)。子供は長男のピーター(アレックス・ウルフ)と娘のチャーリー(ミリー・シャピロ)です。
グラハム家で葬儀場への出発にあったて、スティーブが自室に寝ているピーターを起こし、庭に作られた小さな小屋(ツリーハウス)でエレンを偲んで出てこない娘チャーリーを迎えに行く。このシーンに親子関係が現れており、チャーリーはエレンに特別に可愛がられていたようだ。

葬儀でアニーが挨拶をした。「母は秘密主義で内向的でしたが、こんなにたくさんの人が・・・」。このときチャーリーはチョコを食べていて、スティーブが「ナッツは入ってないな!」と確認をする。彼女には“ナッツアレルギー”がある。

葬儀後の日々。ミニチュア・ジオラマ作家のアニーは「小さな世界アニー・リー」の新作発表に取り掛かった。今は終末医療のシーンだった。
3ジオラマ作成

アニーがチャーリーの部屋に行くとリーの絵を描いている。チャーリーは「お婆ちゃんに男の子になれと言われた」という。アニーも「ママもそうだった。あなたは赤ちゃんのとき泣かなかった!」と答えた。本棚に「サトニ」の背表紙の本があるのを見た。

アニー母の遺物を整理していると遺言が出て来た。「どうか許して、多くを言えなかった。失うものを嘆かないで!“犠牲は恩恵”のためにある」。アニーはこれを見て怒り、整理を止めた。

チャーリーの奇行が始まった。チャーリーを演じるミリー・シャピロの感情を無くした表情にぞっとさせられます。
授業を聞かず、ミニチュアで遊び、絵を描く。放課後撃たれた鳩の死骸の首を斬り落とす。彼女は絆かったが遠くからこの行為を見ている人がいた。

ピーターは授業には興味がない、そこに「マニファナやるか!」のメールが来る。これに嵌っていた。

アニーはアトリエでジオラマ製作に熱中。「リーの墓が荒らされた!」という電話連絡をスティーブが受けたが、アニーには言わなかった。
4集団カンファレンス

その夜アニーは「映画を観てくる」と夫に話し、実はグループセラピーの会に参加した。「2年前に、強制的にこういう会に出た。救われました」と言い「母は“解離性同一性障害”でした。父は自分が赤ちゃんのころ餓死、妄想性のうつ症。兄は統合失調症で母の寝室で首つり自殺“母に身体の中に何者かを招き入れた”と言った。母は人を操るので夫が不干渉ルールを定め、長男は母に近づけなかった。その替わりに娘を差し出した。罪悪感で苦しんでいます。責められています」と告白した。

すこし丁寧に書きました。このなかに、あとで気付くのですが、物語の始まりでこんなにも沢山の伏線が仕込まれ、これが逐次明かされていく展開は鳥肌ものです!怖い!

チャーリーに異変が続く。森に入るとお婆ちゃんが見える。ミニチュアに触っていて念波が走る。窓に光は走る・・・。
2チャーリー

ピーターにパーティの誘いが入り、出かけようとすると、アニーは嫌がっているのにアニーが連れていってという。アニーには「済まなかった」という気持ちがあった。
パーティで、ピーターは友達に誘われ二階でマリファナを喫っていた。チャーリーはひとりぼっちで、ケーキに手を出し、それにココナッツが入っていた。激しく痙攣するチャーリーを車に乗せ病院に走行中、道路上の障害物で急ブレーキを掛けると車がサイドスリップし、窓から顔を出していたチャーリーの首が電柱にぶつかり吹っ飛んだ!ピーターが驚くが、何を想ったが納得したようにそのまま家に戻り、チャーリーの遺体を残したまま自室で眠れない夜を過ごした。朝になって、出かけるアニーの悲鳴が上がった!

葬儀の後、スティーブがチャーリーの部屋に入り壁がサザスであることに気づき、ツリーハウスでチャーリーの描いた絵「犬や猫に追われる鳩。歯との首に王冠が乗っている」を見た。アニーもこの部屋で眠っていた。

ピーターは学校でマリファナに誘われ、夜、自転車で帰宅する。誰かにこの姿を監視さられている。アニーがこれを見た。次の日、アニーがカウンセリングに出掛けると、「私も苦しんでいる。相談して!」と連絡先を渡された。「ジョーン(アン・ダウト)」とあった。

郵便受けに「著名な霊能力者との一夜!死者からのメッセージ」というパンフレットが届き、アニーがジョーンを訪ねた。玄関マットに見覚えがあった。チャーリーの遺体の状況を話すと「ピーターとの関係は?」と聞くので、「当時自分は夢遊病者で、ある夜、ふたりを道連れに自殺しようとしたが、ピーターに気付かれそれ以来喧嘩ばかり」と話をした。この日はこれで終わった。
7食事時の怒り

アニーがジオラマにチャーリーの事故現場を付け加えたことに夫が「ピーターの気持ちも考えたら・・」と注意した。夕食の席で、アニーとピーターがどちらがチャーリーを殺したかで大喧嘩になった。この時のトニ・コレットの形相が怖い! アニーは席を蹴ってアトリエに篭った。

アニーはジョーンを訪ね、チャーリーを呼び戻してもらった。が、途中で怖くなり止めてもらった。「自分でやってみなさい!」とローソクと呪文が書かれた紙が渡され「あんたがやったんでしょう?」と暗示を掛けられた!
5ジョーンの御呪い

アニーが寝室で寝ようとして、窓に虫がぞろぞろと這ってるのが目に入った。この虫がチャーリーの顔にたかっているように思え、ピーターの部屋に入って行った。ふたりがぶつかった。ピーターが「あんたは何故、俺を殺そうとする」という。アニーは「救うためよ!」と泣いた。アニーはピーターを産みたくなかった。流産をしようとしたがかなわなかった。

アニーは嫌がるピーターとスティーブを説得し、居間でチャーリーを呼び出す儀式をすることにした。激しく犬が泣く部屋が振動するなかで、ローソクが突然吹き上がり、チャーリーが現れたと思ったが、ふたりの「止めろ!!」コールで、この儀式を止めた。
6霊を呼ぶ

ピーターが授業中に念波を感じるようになった。アニーは個展を目前に控えているにも関わらずジオラマを壊してしまった。学校からの電話にも出なかった。スティーブが学校にピーターを迎えにいった。家に戻ったスティーブが異臭に気付き、アニーのアトリエを見てアニーの異常さに気付いた。

夜、アニーの夢遊病が始まりピーターの部屋に入り諍いになる。チャーリーの部屋でピーターの顔が描かれた絵を発見、この絵に油をかけて燃やそうとするが、自分が火傷して、焼却できなかった。

アニーはこのことをジェーンに相談しようと訪ねるが不在だった。玄関のマットに見覚えがあり家に取って返し、リーの遺品を調べた。するとオカルト教団のバイブルがあり「招換」というページがマーキングされていて「地獄の王、ベイモンは儀式は完了後、定められた者の身体に残る。王の臣下への財産は(絵)」、さらにアルバムにはリーがジョーンと並んで写っていた。グラハム一家の写真もあった。この写真が信徒によって祈られている。
アニーはアルバムを抱え、屋根裏に上がるとそこにリーの首がない遺体がオカルト教団の紋章とともにあった。

スティーブは友人にアニーの状態がおかしいので調べて欲しいと墓の状態を調べて貰った。友人から暴かれた墓の写真が送られてきた。

ピーターは教室で念波を感じ外に出るとジェーンから「お前を追い払う!サンタニー!ピーター!肉体から出ていけ!」と大声で叫ぶ。ピーターは教室に戻り顔を机にぶつけ気を失った。学校から連絡があり、スティーブが家に連れ戻した。
スティーブとアニーのふたりで車からピーターを降ろし部屋に寝かした。アニーが「屋根裏にリーの遺体がある、調べて欲しい」とスティーブに頼むと「あんたが墓から連れてきた。いい加減にして警察に委ねるべきである」と渋った。が、一応確認した。そしてこの写真を焼いて欲しいと燃やそうとして焼却できなかった写真を「焼いて欲しい!」とストーブの前で油を振りまいて渡した。スティーブが渋るのでストーブの火を点けた。スティーブは黒焦げに焼けた!

8屋根裏p-ターの怒り

ツリーハウスの光で目覚めたピーターが居間でスティーブの遺体を見て驚いているところに、アニー(?)が近付いてくる。屋根裏に逃げた。そこでアニーが首を吊って切り落とす姿、全裸の男女の姿が眼に入り、庭に飛び降りた。
ピーターの身体に光を放つ虫が留まり、アニーの亡霊に導かれツリーハウスに入ると、首のないリーとアニーが傅くなかで戴冠式が行われ、ベイモン王となった。ベイモン王は地獄の8王のなかのひとり。オカルト教団信者のベイモン万歳の声が響いた!

ピーターがベイモン王になり、これに傅く教団のミニチュアが残されていた!

感想:
ぐだぐだと書きましたが、精巧に作られた伏線の繋がりを追うためでした。記録に残しておかないと分からなくなります。さほどによく出来たドラマです。
葬儀挨拶、遺書、遺品、セラピーでの懺悔、霊媒師への告白。これらがチャーリーの死や母の墓地暴き、アニーとピーターの確執の謎へと繋がっていく。この謎をなぞるように音響や犬の鳴き声、意味不明な絵などを通して恐怖に陥れ、それがクライマックでは別次元のオカルト的恐怖の世界へと誘ってくれます。
いくつかの疑問が解けないままですが、これを探す中で、深みにはまっていきます!眠れなくなりますよ!(笑)

グラハム家は代々オカルト教団信者で、教義に基づき長男を悪魔に差し出し、その犠牲の上で繁栄を保ってきた。しかし、アニーの反逆でこの継承が断たれ、教団の怒りに触れて滅亡するという話でした。

冒頭、ツリーハウスからミニチュア・ジオラマ、家族の住む部屋へと映像が移動し、物語の進展にともないこれが逆に動いてツリーハウスでピーターがベイモン王となりグラハム家が滅亡する。
アニーはグラハム家の安泰を願って、母リーの魂を鎮めるよう、ピーターがベイモン王になるジオラマを製作しようとした。母の魂を鎮めるため“スプリチュアルリズム”に関する論文に基づき綿密に母の魂を入れるようスタートしながら、チャーリーの死、ピーターとの確執から、精神が侵されていき、最後にはジオラマを破壊してしまう。まさかジオラマの世界が現実のものになるとは思わなかった。ふたりの子を失ったアニーの悲しみが伝わります。

トニ・コレットのどんどん怖くなっていく怖い顔とミリー・シャピロの無表情な顔に圧倒される作品でした。
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「ノンストップ」(2020)韓国映画は面白い、すかっとした!

1ポスター

コロナ禍の憂鬱を吹っ飛ばして欲しいと本作を選びました。一日2回の上映、それにパンフレットなし。大丈夫か?と思いましたが、そんな心配はいりませんでした。すかっと見事に鬱を吹っ飛ばしてくれました。

 ハワイ旅行の懸賞に当たった一家が、乗り合わせた飛行機で、北朝鮮のテロリストにハイジャックされ、果敢に立ち向かうというミステリアスなアクション・コメディ。

密室旅客機のなかで、100分間のドラマ。何を見せてくれるのかと思っていましたが、これが凄かった。始めから終わりまでドンデン返しの連続でテンポが良い。最後にあっと驚く“落しどころ”、みごとでした。背景にたっぷりと韓国でなければ描けない南北問題が組み込まれ、アクションと家族愛、南北の友愛が描かれていました。

監督:イ・チョルハ。
出演者:オム・ジョンファ、パク・ソンウン、イ・サンユン、ぺ・ジョンナム、イ・ソンビン、キム・ナムギル、他。

あらすじ(ねたばれ):
冒頭、モンゴル・ウインバートルのロシア・北朝鮮原子力合同研究所から極秘資料を持ち出そうとする男女の秘密工作員。発覚され逃げるなかで女工作員が発砲。なんのことかさっぱり分からないオープニングでした。(笑)

ソウルに住む、ミヨン(オム・ジョンファ)とソクファン(パク・ソンウン)夫婦、その娘で小学生の娘ナリ。ミヨンは人気の揚げパン屋を営み、ソクファンはパソコン修理工で、貧しいながらも仲良くくらしている。ふたりは瓶蓋についているハワイ旅行の懸賞を目当てに、オロナミンを飲み続けてきた。(笑)スポンサーはこれでしたね!(笑)

ミヨンが飲んだオロナミンでハワイ旅行に当選。これまで飛行機など乗ったことがないと三人家族でハワイの旅に。

搭乗機はボーイング777。集まってくる乗客にはヤクザ風の男たち、黒いマスクをした謎の女性((イ・ソンビン)と男たち、ハワイで出産するという姑と嫁、国会議員、等々。客室乗務員はチーフのキム(ぺ・ジョンナム)、ドジなヒョンミン(ぺ・ジョンナム)ら。
ミヨンとナリがビジネス室。ソクファンはエコノミー室の席に着いた。ソクファンの隣に温和な謎の老紳士が着席。ふたりはすぐに会話が出来るなかになった。
離陸時、怖い!と精神安定剤をたっぷり飲んで寝る居眠り紳士(キム・ナムギル)。

巡航飛行に入り、ピーナッツタイム。初めての飛行機旅、ミヨンはピーナッツが無料だと知って食べに食べた!(笑) トイレに走るが、謎の女が入って使えない。堪らない!とエコノミー室の夫の元に。「ナリを見て!」とエコノミーのトイレに走り込んだ。
2娘の席

機が乱気流に入り、機内は大混乱。

エオノミー室のヤウザ風の男たち。リーダーのチョルソン(イ・サンユン)の指示で一斉に立ち上がり、部屋を捜索、乗客を前方の部屋に集める。この間、ミヨンは長いトイレ!(笑)さらに入念にお化粧をする。(笑)

パイロット室では犯人たちが機長を脅して航路変更。
3女優と一緒に

チョルソンはビジネス室にやってきて、“あの女に似ている”と謎の女に目をつけマスクを取る。なんとアクション女優として名の知れた女優アン・セラだった。テロリストが大喜びで写真を撮る。国会議員が「何故国会議員を・・」と抗議する。(笑)

ミヨンは捜索にきたテロ犯人を倒し、「昔の癖が出た!」と呟き、客室乗務員に化け、カートを押して客室に入り、派手にテロ犯人たちと戦うが・・・。
4大暴れのミヨン

一方のソクファンは床の羽板を外し貨物室に潜り、機のコントロールパネルに辿りついた。パソコンに繋いでハイジャック情報を発信した。

そこにドジのヒョンビンがやってきて、「もうひとり味方がいる」と通信機を渡す。これでミヨンと話すが、音声秘匿装置付きの声の判別が出来ない。一体だれが戦っているのか分からない。まさか妻が・・。韓国らしい発想です!

ソクファンはハイジャック犯人たちが北朝鮮の工作員と知り、機の航路を変更する。

ソクファンはチョルソンに捕えられ個室に。そこにミヨンも連れて来られた。「こいつは元情報院にいた!」と明かされ、ミヨンは驚く。チョルソンはミヨンを「モクレン」と呼び、あのモンゴルウインバートル事件でのパートナーだった。ソチョルソンが「原子爆弾資料が・・・」と言い、「なんで俺を撃った!」、ミヨンが「外して撃った!」と揉め始めた。ソクファンはもう気が気ではない。(笑)

ミヨンはその後整形手術をしてソウルの焼き鳥屋にいた。これを監視していたのがソクファン。監視中に北工作員に襲われたところに揚げパンを持ってきて、これで難を逃れ、ふたりは結婚したという。ソクファンは「こんなことになったが、お前がモクレンでいい」と言い、これにミヨンが泣いた。(笑)

テロ犯人たちが「これからどうするか?」と揉め始めた。高度を下げて脱出、機体を爆破する」という犯人たちを「乗客は民間人ぞ!」と反対するチョルソン。

仲間割れしたテロ犯人たちに、ミヨン、チョルソン、それに乗務員、映画監督たちも加わって大乱闘。そして、ソクファンが電源を切った。

テロ犯人を制圧したところで、謎の老紳士熊のぬいぐるみをナリに渡し、自らはオパラシュートを身に着け、ミヨンにパラシュートを着けるよう促す。これに刃向かうソクファンが撃たれて起きてこない!
機体ドアーを開けた瞬間にぬいぐるみを機外に。爆弾だった。ミヨンが蹴とばして老紳士を機外に。

なんとソクファンが目を覚ます。チョルソンから防弾チョックを着けてもらっていたという。(笑) チョルソンはパラシュートで機外に消えていった。

機長に「機は仁川に迎え!」と指示が入った。困ったソクファンがスタンガンで機長と交渉し、機の燃料放出が始まった。(笑)機は予定通りハワイに着陸した。

ハワイでくつろいだソクファンがミヨンに「全て俺の計画どおりだった!」と告白。ミヨンは「お金を頂戴!」(笑) 結婚式を挙げてなかったのでこれが目的だった。オロナミンの蓋の懸賞は誰が作った?やっと機内で目を覚ました居眠り紳士。この人はだれ?(笑)
5眠る大物

感想:
次から次へと続く機内の危機エピソード、その中で繰り広げられる夫婦の物語。
原題はOKAY MADAM。邦題の「ノンストップ」の方が生きた題名に思えます!

南北エーゼントが結婚、北朝鮮のエーゼントだったふたりが韓国機の中で仲直りするという、ずいぶんと北に気遣いのある作品でした。(笑)
さらに今の韓国状況を伝えるかのような、国会議員の資質、嫁姑の問題、女優と監督、格差エピソードも笑えます。

エンドロールまで、はらはらドキドキしながら、謎解きをしてくれました。オム・ジョンファの熱演を楽しみました。イ・ソンビンを整形してオム・ジョンファになったというキャスティング。(笑) 万事、笑いが一杯でした!
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「すばらしき世界」(2020)ちょっとの辛抱と善意で手がとどくところにある!

1ポスター

西川美和監督作品で、主演が役所広司さん。これは見逃せない!と観て参りました。
人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯。見た目は強面ですぐカッとなるが、彼流の強い正義感がある。そんな彼が娑婆に出て、真っ当に生きようと悪戦苦闘するなかで浮かび上がる現実世界は・・・・というはなし。

「すばらしき世界」は何処にあるのか、ちょっとの辛抱と善意で手がとどくところにある! 「人間社会は捨てたものではない!」と感じる作品でした。

原案は佐木隆三さんのノンフィクション小説「身分帳(1990)。監督・脚本:西川和美、撮影:笠松則通、音楽:林正樹。
出演者:役所広司、仲野太賀、北川有起哉、六角精児、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子、橋爪功、他。

あらすじ(ねたばれ):
殺人罪で13年間を旭川刑務所で過ごした三上正夫(役所広司)、出獄時「罪を反省しているか!」と問われ「判決には不満がある」と言い、生い立ち・犯罪歴や服役中の態度が書かれた「身分帳」を放送局に送りつけて、営門を出た。“真っ白な雪の中”を歩いてバスに乗り、東京の保護司庄司弁護士(橋爪功)の元に急いだ。
2出所

送られた身分帳を見た局プロデュ―サー吉澤(長澤まさみ)は小説家への転身を目指していたTVディレクター津乃田(仲野太賀)に「密着ドキュメンタリー番組」をやってみないかと勧めたが、「相手にしない方がいい!」とあまり乗り気ではなかった。

庄司夫妻にすき焼きで出所祝いをしてもらい「人の信頼を取り戻せ」と励まされた。「養子縁組」のTV番組を観て、「子供を捨てる親がいるか!」とカットする。

翌日、三上は庄司弁護士と福祉事務所に出掛け「生活保護申請」をするが、担当相談員・井口(北川有起哉)から「反社会勢力と関りがありませんか?」と問われ、庄司弁護士がうまくとりなしたが、「たかが生活保護費ごときで肩身が狭くなる、刑務所のほうがましだ!」とムカついた。血圧が上がっりふらついて入院することになった。

医師の診断は「頭に傷がある、体調をみながら生活するように!」と注意があった。そこに津乃田が挨拶に訪れた。三上は愛想よく「なんでも喋るぞ」という態度で、津乃田はほっとした。
津乃田の車で古い住み家、木造アパート二階の部屋についた。部屋を整理していると、庄司弁護士の妻敦子(梶芽衣子)が古いミシンを持ってくる。これは三上が頼んでいたもので、刑務所で覚えたミシンによる剣道衣を作って自立して生きようと考えていた。とてもうまくバッグを作って見せて驚かせた。
3ミシン

掃除洗濯、買い出し、カーテン作り、自炊、ゴミ出し等で毎日を過ごしていた。剣道衣製作会社に公衆電話から注文を入れるが、ない。

夜間一階で若い連中がゲームで騒ぐ。注意にいったところで「日中働いてる者に、生活費を貰っているやつが口出すな!」とばかりに言われ、カッとしてそのうちのひとりチンビラ風の男を外に呼び出し啖呵で脅した。この騒ぎに付近の住宅に住む人たちが驚く。

こんなことがあってか、井口が家庭訪問と称して、三上の生活を見にやっていた。こぎれいに生活し、お茶を出すことに“この人が殺人犯人”とびっくりした。「保護費はあなたの裁量で使っていい」というので携帯電話を買った。

河原で津乃田に相談しながら携帯で職を探す。自動車運転免許証を採ればなんとかなるという結論になった。津乃田が「罪の意識があるか?」と聞くが、三上は「ない!」と答えた。津乃田は理解できなかった。

三上は仕事を持ち生活費を稼いで普通に生きようと考えていた。それもいつ命を落とすか分からない健康状態で。ところが周りがそれを許さない!

さっそく無効になった免許証の更新に出向くが、新たに取得するよう求められた。ここで元妻の久美子(安田成美)似の女性を見て、久美子に会いに行った。彼の殺人刑は彼女を救うために相手をメッタ刺しし、殺意を認めたためだった。

彼女は仕事で不在で会えなかったが、娘に会った。自分の子かな?と指を折って歳を数えた。まだまだ男として生活したい。保護費ではヘルスにも通えない!(笑)

近所のスーパーに買い物していて、店長の松本(六角精児)に万引を指摘された。近所での騒ぎが影響したらしい。全身裸になって刺青も一緒に調べて貰った!(笑) 松本は恐縮してアパートまでやってきて食品を差し入れしてくれ、同じ福岡の出身ということで意気投合した。
5免許講習

道路交通法を自習し、運転には自信があると免許試験場に出かけたが、13年間のブランクを埋めることはできなかった。車の構造機能が彼には合わなかった。(笑)
試験に失敗し憂ばらしにヘルスにでもと値段を聞いているところに津乃田と吉澤がやってきたので、焼肉店で番組について話すことになった。「三上さんが壁にぶつかり、トラップに掛かりながら更生していく姿を放送したい」という。三上は「トラップは嫌だ!」と反対したが、「母親が見ていて会えるかもしれない」ということで、受けることにした。
4打ち合わせ

その帰り道で若いふたり組が中年の男に因縁をつけているのに出会った。三上は躊躇なく戦闘加入して喧嘩が始まる。喧嘩は梯子を持ち出して殴り合うというエスカレートに、カメラに収めていた津乃田が逃げ出した。怒った吉澤が「あんたは終わっている。ここは喧嘩を止めるか、撮影し続けるだ!」と怒り投げつけて帰っていった。津乃田は「これでは殺人事件が起こる」と取材を続けるかどうか考えていた。一方、三上は意気揚々とアパートに引き上げた。(笑)

このことをスーパーの松本に話すと「喰いものに去れる。人の保護を受けている者のすることでない」と反対した。三上は「喰えるやつには分からん!俺は3000万くれれば人を殺す!金持ちが枕を高くして寝ているお調子もんではないぞ!」と脅すと「あんたはおかしい!」と、喧嘩別れをした。

三上は免許講習を受けたいと資金を生業扶助金で出来ることを知って、庄司弁護士に相談すると福祉事務所に聞けという。井口を訪ねると、上司に話さねば回答できないと埒が明かない。

三上は電話で津乃田に借金を持ち掛けたが断られた。津乃田は「何で逃げないのか?」と三上のやり方を非難した。「見逃すのが人生か?都合がいいときだけ現場に出てきて!」と津乃田をなじった。津乃田は「あんたのその性格で、母親が逃げたんだろう!」と応じると、電話が切れた。津乃田は「言い過ぎた!」と気付き、図書館で暴力やネグレクトについて基本から勉強し始めた。

金が工面ができない。これでは人生が終わりと、博多の親分大稲葉(白竜)を訪ねることにした。空港に迎えがきて、ヘルスに案内してくれるなど暖かく迎えてくれた。
しかし親分は組に戻れとは言わなかった。女将さん(キムラ緑子)が「本当は廃業したかった」と言い、「あんたはこれが最後のチャンス。娑婆は我慢の連続よ。我慢のわりに面白うもなか。そやけど、空が広いち言いますよ!」と餞別をくれてた。

母親の居所が見つかったと津乃田が福岡にやってきて、三上はふたりで児童養護施設を訪ねた。母親の記録はなかったが、当時食事の面倒を見てくれた女性が歌を唄ってくれ、三上も一緒に唄った。そして園児とサッカーを楽しみ、まだ真っ白だった当時を思い出し、涙が止まらなかった。この姿に津乃田も泣いた。

温泉風呂で津乃田は「あなたが生まれて、生きてきたことを書きます。だから戻らないでください」と言いながら三上の背中を、まるで罪を流すように洗った。

東京に戻ると井口から介護施設で働いて見たらという提案され、施設を訪れ仕事を体験すると、三上のような几帳面な男には最適な仕事場だった。
松井が自動車講習費の一部を提供したいと言い、その残りを庄司弁護士が持つことになった。三上は自動車講習にも顔を出し始まった。
6寄贈

就職祝が三上のアパートで、庄司夫妻、津乃田、松本が集まって開かれ、「もっといい加減に生きろ!」「必要なこと以外は捨てろ!」「逃げてこそ生まれる!」と言葉が贈られた。通勤のための自転車が贈られた。

津乃田は「普通の三上を書く」と小説を書き始めた。

介護ホームで若い障害を持つ阿部と花を植えた。その阿部が建物の影で、2人の職員に虐められているのを見た。三上は躊躇なく側にあったモップを持ってふたりを殴りつけ、いじめを止めた。このとき忸怩たる思いがこみ上げてきた。
作業室に戻って、女性職員とお手玉作りをしているところに、男が戻ってきて「阿部は前科もん!」と貶し、阿部の不自由な身体の動きを真似て「三上さん似ていますか?」と聞く。三上は側のハサミに目が入ったが、思いとどまり、笑顔で返した!

介護ホームから帰宅しようと外に出たところで阿部がにこやかにコスモスの花をプレゼントしてくれた。なんの反論もしてやれなかった俺に!と泣いた!
自転車にその花を乗せての帰り、久美子から「仕事みつかった?相手ともめとらん!昼ごはんたべよう」と電話が入る。雨が降って来て、家路を急いだ。

家に着いた三上は胸が痛み、コスモスの香りを嗅いで、静かに息を引き取った。このとき津乃田は三上が刑期を終えたところを書いていた。津乃田は現場に駆け付けたが、警察により会せてもらえなかった。庄司弁護士、松本、井口も駆けつけてきた。

雨が上がり、空が見えてきた。

感想:
真っ白な雪の日の出獄。真っ白になって娑婆に戻り、病を抱えながら、人に迷惑を掛けないと仕事を求め、自分の正義を通そうとし、ある時は雨に日、ある時は晴天に歓喜し、最後は天職のような介護の仕事に就きやっと社会と折り合いをつけて生きれると思ったところで、大雨に見舞われ、純白を意味するコスモスの花の香を嗅ぎながら、息を引き取った。

三上にとっては生きづらい世界ではあったが、暖かいものではなかったかと。嫌でも人と触れ合うことで、お互いの理解が進み、掛け替えのない人々になっていくという人間関係の不思議。この世界がすばらしいと思いますよ。

そこには三上のすこしの辛抱と忍耐と、周りの人たちには彼への少しの善意が必要でした。捨てる神に、拾う神ありです。人生は生きる価値があると思わせてくれるすばらしい作品でした。

この物語を牽引するのは言わずもがなの主演・役所さんでした。その演技に文句の付けようがない。ここでは気性の激しい三上に嫌悪感を抱きながら、彼の気性を認め、親のように馴染んでいく仲野さんの地味な演技もすばらしかった。そして、笠松さんの男気のある映像も忘れられません。
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「ブルージャスミン」(2014)好きな「ブルームーン」の歌詞を忘れた女性の生き様!

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監督がウッディ・アレン、第86回アカデミー賞でケイト・ブランシェットが主演女優賞を受賞した作品、WOWOW(吹替版)で観賞しました。

セレブな妻が夫の不倫に怒り、その腹いせに夫の不正事業を暴いたために夫が自殺、その地位・財産を失った。サンフランシスコに住む妹を頼り、美術デザイナーとして自立を志すなかで新しい伴侶を見つけるが、セレブ時代が忘れられず、嘘を重ねたことを見破られ、立ち上がれないはなし。(笑)

ウッディ・アレンはウイットに富んだ女性の見方を描いてくれますが今回はえらく辛辣で「こんな女くたばってしまえ!」と言わんばかりの結末。よほど耐えがたい記憶があるんですかね!よくセクハラで訴えられなかった!(笑)“男目線”で観ておくと女性選びに失敗しないと思います。(笑)

監督・脚本:ウッディ・アレン、撮影:ハビエル・アギーレサロベ。
出演者:ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、ルイス・C・K、ボビー・カナベイル、アンドリュース・ダイス・クレイ、マィケル・スタルバーク、タミー・プラン。

あらすじ(ねたばれ):
冒頭、サンフランシスコ行きの機内。ジャネットことジャスミン(ケイト・ブランシェット)が隣の老婦人に「夫ハル(アレック・ボールドウィン)は“ブルームーン”が好きでセックスも上手かった!」と話しかける。驚く婦人。夫人が「あの人おかしい!」と驚く。ジャスミンに何があったかというシーンから始まります。

ジャスミンは大学時代に、投資家ハルに見初められ、人類学の学業を辞めて結婚。彼の名声でニューヨークの社交界にレビューしこれを唯一の誇りに生きていたが、夫が急死し、生活に行き詰まり、妹のジンジャー(サリー・ホーキンス)に身を寄せ人生をスタートさせようとサンフランシスコに向かっていた。

ジンジャーは前夫オーギー(アンドリュー・ダイス・クレイ)との間に二人の子をなしていた。今は大工職のチリ(ボビー・カナベイル)に結婚を迫られていた。
ジンジャーはチリに我慢してもらって、部屋を準備しジャスミンを受け入れた。 やってきたジャスミンは豪華なファッションでファーストクラスで来たと言いルイ・ヴィトンのスーツケース2個を持っていた。なんでこんなレディーがと驚くジンジャー。全く“経済観念”がない!
6融資を勧めた - コピー

シンジャーはかって20万ドルの宝くじが当たって、夫オーギーとニューヨークにジャスミンを訪ね、金の使い道を相談した際、ハルに投資を勧められ、これが失敗して全額を失った。それでも姉を庇うジンジャーに愛想つかしてオーギーは別れていった。ジャスミンとジンジャーふたりは里子の姉妹で、姉のジャスミンは憧れの姉であった。しかしジャスミンにはジンジャーを庇う考えはない。ふたりの容貌があまりにも違うのはこのせい。(笑)

チリが早くジャスミンを追い出そうと酒を持って仲間のエディ(マックス・カセラ)とご機嫌伺いにやってきた。ようこそ!とバーボンで乾杯しようとすると、ジャスミンはワインで応じる。 エディがジャスミンに何とか近づこうとするが、ジャスミンが不快感を露わにする。
2薬と酒

ジンジャーがこれからどうするの?と問えば、「大学時代やりたかった美術アドバイザー」になるという。お金ないのにどうやってと問えば、「テレワークで学んで免許取得する」という。「パソコン使えるの?」「使えない、スクールに通う」「そのお金は?」。ということでチリが探してくれた歯科医院の受付係として働きながらパソコン教室に通うことにした。

患者の都合に合わせて予約を準備することなど、やったことがないからまともにできない。それでも首にならない。それは医師フリッカー(マイケル・スタールバーグ)に魂胆があった。(笑)  フリッカーが頃を見計らって「もういいだろう」と迫ってきた。男は女を見れば動物になる。(笑) これを拒否して歯科医院を辞めた。

パソコン教室で合コンに誘われ、ジャスミンはこれに賭けることにした。彼女の出来ることはこれしかない!一人では無理とジンジャーを誘った。
3婚活

ジャスミンが考えたように、国務省務めで将来下院議員になろうかという男ドワイト(ピーター・サースガード)に出会った。ジャスミンは「夫は死亡、子供はいない、インテリアコーディネーターをしている」と彼の気を引くようごまかした。ドワイドはジャスミンの話を信じて結婚の約束をした。彼女の美貌と会話のセンスの良さから決めたようだ。何でもっと内面を見ないの?「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」(19)でこのバカバカしさを描いてくれます。
4彼氏

一方のジンジャー。すこし歳とってるが、やさしい音響技術士だというアル(ルイス・C・K)に出会い、「チリより品がある」とすぐにホテルに駆け込むという状況。(笑) が、チリはジンジャーに復縁を迫ってくる。しかし、アルの居所に電話して彼は既婚者だと知る。

ジャスミンはドワイドと住むマンションを確認し、指輪を買おうと店に入るところで、オーギーに出会った。オーギーが「俺から奪った金をどうした!馬鹿旦那も逮捕され自殺した、全てはお前のせいだ!バカ息子がここに住んでいるぞ!」と怒鳴る。
5本夫の罵声

ジャスミンは夫ハルが若い秘書に熱を上げたことに嫉妬して、夫の闇商売を明かし、このことでハルは捕らわれ自殺していた。ジンジャーがニューヨークに出て来たときにあのふたりは怪しい!と忠告したとき、ジャスミンがちゃんと対応すればハルの浮気を封じれたのに、ジャスミンの自尊心が邪魔した。男女のことになるとジンジャーの方に才があると言える。(笑)

ドワイドは直ちにジャスミンを振った。

ジャスミンは息子ダニー(オールデン・エアエンライク)を頼っていくが「俺に関わってくれるな!あんたみたいな見栄っ張りな女は嫌だ!」と断れ、行き場を失った。
息子はハーバード大出の自慢息子だったがジャスミンが夫の不倫を激しく追及し、警察に突き出したことを知って家を出ていた。

ジャスミンがジンジャーのアパートに戻ると、ジンジャーはチリとの仲を元に戻し仲良くやっている。ジンジャーが「セレブの生活に戻れるならよかったね」と声を掛けるとジャスミンは本当のことが言えず、着のみ着のままで出て行き、ひとりベンチに座り「ブルームーン」を聞くが歌詞を忘れたと呟いた!

感想:
美人で自己中な女性の人生転落悲劇。知的美人のケイト・ブランシェットにこの役を演じさせたことで、外見がどんぴしゃりですから、こんな女性のバカバカしださが際立って伝わるという辛辣な女性の見方でした。最初から終わるまで、何一つまともなところのない女性でした。(笑)
大した努力もなく美人を鼻にかけて結婚してセレブな地位を得たら、それを失ったときにはパニックになるし間違ったこともするでしょうが、全く自分を反省することのないジャスミン、“ブルー”ジャスミンに驚きました。

取るに足らない女性の代表としてのジンジャーと対比しながらジャスミンの行動を描き、真っ当に生きるためには何が必要かをジンジャーの姿で描くという、この辛辣さがよかった。しかし、ここまで描くかというアレンの悪あがき!(笑)

アレンの皮肉に、全身で応えたケイト・ブランシェットの演技、セレブな女性から夫の浮気にマスカラで目を真っ黒にして泣き狂い、ラストは泥酔して虚ろな精神病者の表情。あたりまえです、アカデミー賞主演女優賞ですから。

ラストシーンで好きな曲「ブルームーン」を思い出し「歌詞を忘れた!」と呟きますが、なんでこの曲が好きなの?夫が好きだったから、これこそが大問題だった。どうしょうもない女に成り下がったジャスミンのこれから、どうなるんでしょうかね!(笑)
                ****
付記:ブルームーン(Blue Moon:和訳)
あなたは一人ぼっちで立っている私を見ていた
心に描く夢もなくて
愛する人もいない
ブルームーン
あなたは何のために私がそこにいるのかちゃんと分っていたのですね
あなたは私のお祈りが何を言ってたのか聞いていたのですね
私が誰かを本当に大切にしたいということ

それから突然私の前に現れた
私がいつまでも抱きしめておきたいたった一人のひとが
私は誰かがささやくのを聞いた「どうか私を大事にして。」と
そしたら、お月さまが金色に変わっていた

ブルームーン
今はもう一人じゃないんだ
心に描く夢もなくて
愛する人もいないような
(リピートの部分は省略)
Blue Moon (song):Wikipedia

「花束みたいな恋をした」(2020)"終わりに、始まりがある"恋愛物語!

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とても評判がいい、このような作品を観る年頃ではないのですが、主演のふたりに誘われて観ることにしました!

偶然に出会った大学生の男女。映画や音楽、小説と好みが一致し最強の恋人同士だと思っていたが、社会に出て仕事を持つことで次第にすれ違いが出てきて、追い詰められていくふたりの5年間にわたる恋物語。

年齢とか考えないで、ふたりの恋の行方にそんなこともあったなと感情移入でき、とても楽しめる作品でした。恐らく今の時代にぴったりで、それでいて時代を問わない、人を愛することや生きることの意味を知る作品だと思います。

恋愛の終わりから始まる物語、どうしてこんな結果になったのか、その結果を問うのではなく、この思い出を抱いて次に進んでいく物語。ということで前段、嫉妬するほどに美しい恋愛模様が、後段で社会に出て挫折するところが描かれ、とても愛おしくて切ないですが、リアルで筋が通った恋愛物語になっていて、恋愛教書と言っていいかもしれません!
何の変哲もない、あたりまえと言えばあたりまえの恋物語。これをこんなに面白く見せてくれる坂元さんの脚本、凝りに凝ったセリフはさすがでした!

監督:土井裕泰、脚本:坂元裕二、撮影:鎌苅洋一、音楽:大友良英。
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、PORIN、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫、他。

あらすじ(ねたばれ):
2020年、冒頭でふたりがファミレスでイヤホーンで音楽を聴いている若いカップルを見ながら、自分たちの過去を振り返る物語になっています。

2015年冬、八谷絹(有村架純)21歳。振られて彼氏いない?今はミイラ展が最大の関心事。山音麦(菅田将暉)21歳、美術部。彼女とは別れた。最近調子が悪く燃え尽き症候群だが、ストリートビューイングに写し込まれたことを知って、何かいいことが起こるぞと興奮気味だ。

こんなふたりが終電に乗り遅れ、入ったカフェで一緒になった。そこに押井守が居ることに気付いた麦が「神がいる!」と声を挙げ、それに共鳴した絹。これが切っ掛けで、この夜、居酒屋、カラオケそして麦のアパートへと場所を移しながら、本や映画、歌、食べ物の好みが同じだ!と燃え上がった!次はミイラ展に一緒にと約束して絹は帰って行った。
2初めての出会い

二人が意気投合するセリフには当時の作家や小説名、バンド名や曲名といった話題が一杯で、これを理解できる人にはふたりの気持ちが読めて堪らないシーンでしょう。

ミイラ展を見て、ファミレスで小説の話をして、港で行きガスタンクを見て、誘電までには告白するぞとファミレスでねばり、やっと「付き合って下さい!」と言えたふたり。(笑) 交差点で信号待していてキスした。
3初めてのキス

これから一週間、食事したり映画を観た。映画は「希望のかなた」で絹は感激の様子だったが、麦は居眠り!

三日続けて麦のアパートに泊まった。

四日目、絹はブログで知ったメイさんが亡くなったことをニュースで知り、彼女が「恋愛の終わりは始まり、成就は数パーセンで、切なさに苦しむしかない」と書いていたことを思い出していた。絹がこの話をするが「今始まったばかりだ」と気にかけなかった。

就活の季節がやってきたが、麦は自分の絵力を生かし自室のイラスト作業で凌いでいた。一方の絹は面接試験に出掛けるが、うまくいかず落ち込む。そんな絹を見て、多摩川が望めるマンションで暮らすことにした。毎日が一緒で、ふたりは川辺の散策をしながら焼きそばパン屋さんを見つけたりと、幸福感に包まれていた。
4マンション

2016年の元旦、初詣で猫を拾ってきて飼うことにした。女性が猫を飼うと危ないですね!(笑) ふたりは大学を卒業しフリーターになった。が、麦のイラストでは生活が苦しくなる。そこに絹の両親、(広告代理店経営)がやってきて、母親(戸田恵子)が「普通に働け!」と説教。父親(岩松了)は「ワンオク好きか?」と聞く。(笑)そして麦の父親(小林薫)が新潟から出てきて「花火家業を継げ!反対なら5万円の仕送りを止める」という。
5日々楽しかった

両家の親の言葉は麦の生活態度に決定的な影響を与えた。絹との今の生活を続けるにはどうしたらいいかと。麦は就職することに決めた。

12月に絹が簿記の資格を取って歯科医院に就職した。友達に誘われて合コンに参加もした。

2017年、麦はネット通販の会社に就職が決まった。帰宅が5時だから絵も描け、これで絹とずっと一緒に過ごせると思った。が、営業部の仕事はそんな生易しいものではなかった。競走意識で意地もある、毎日仕事を持ち帰り、休みのない生活が続く。絹の「絵を見に行こうか?」にも生返事で、言い訳ばかりの生活が続く。クリスマスに本屋さんに行っても、麦の読む本は変わった。

2018年、あの焼きそばパン屋さんがつぶれたと知らせても麦は反応しなくなった。絹が「イベント会社に転職したい。楽しいから」と伝えると「仕事は遊びではない。そんな仕事をするやつは人を舐めている」と言い、突然、「結婚しよう!毎日好きなことが出来る」とプロポーズした。

絹はIT会社(社長:オダギリジョー)を訪ね、酔っぱらって愚痴を吐いた。絹は友人の死を一緒に悲しめなくなっている麦とは別れるべきと思ったが、いつ切り出すかが問題だった。
6ラストの日

2019年、友人の結婚式にふたりで参加し、その後まだ乗ったことがないと観覧車に乗って楽しかった日々を思い出し、ファミレスに入った。
麦はこれまで一緒に生活したことに感謝して、良い思い出にすると言ったが、「結婚しよう!今日が楽しいから元に戻れる」と言い出す。そこに若いカップル(清原果耶、細田佳央太)がやってきて、ふたりがいつも座っていたテーブルについて、昔ふたりが交わしたような会話を始めた。やっと冒頭シーンに繋がりました輝くようなカップルを見て麦は泣いた!絹は外に出て泣いた。麦が追ってきて、そっと抱きしめた。

2020年、麦に彼女ができ、偶然見つけた絹も彼氏と一緒だった。あのころのことは思い出として残っているが、新しい生活が始まっていた。麦はストリートビューイングに、絹と一緒の姿が写し込まれていることを知った!

感想:
どうしてふたりが瞬く間に恋に嵌ったの?ふたりの結びつきがポップカルチャーなものだけに強烈な共感を得たのではないでしょうか。好きという感情で、相手に合わせることもあるということ。社会に出て、生の生活に晒されたとき、その共感度が試される。

辛い社会生活に晒された麦には「イベント会社に就職したい」という麦の気持ちは“ちゃらちゃらした仕事に就く”としか見えなかった。絹の好きなことをしたい気持ち、どう生きたいかという願いを理解してやれず、楽しい思い出があれば昔のように暮らせると思ったところに大きなすれ違いが生じた。

この作品は後段の社会に揉まれて、その先をみる恋物語になっているところに価値があります。イベント会社社長(オダギリジョー)の「結婚という手もあったかな!それはそれで、しっかり寝なさい!」の言葉に、もうあの時代にバックは出来ないという大人の作品になっています。

平凡な日々のなかに、それだけにリアル感がありますが、時代を取り込んだ、人の心の機微に触れる坂元さんの名セリフで綴られた作品。主人公と同年代の菅田さんと有村さんが、まるで主人公たちがそこにいるかのようにそのセリフを喋り佇んでくれ、「花束のような恋」の先に、何が大切なのかを思い出させてくれる一生ものの作品です。
                   ****

「ライフ・イズ・ビューティフル」(1997)このタイトルにこの落ち。イタリア人にしてやられた!

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とても評判のいい作品、NHKプレミアムで一連の反ナチ作品として紹介されたひとつ。ユダヤ人迫害(ホロコースト)の悲劇を如何に伝承するか?こういうやり方があったかと楽しめました。

あらすじ:
イタリアノ田舎から親父を頼りに上京中に偶然出会った娘さんは小学校の先生だった。ホテル勤務をしながら、とても手が届かないと思った先生を手に入れる。なんと運のいい人生か?ふたりの間に可愛い男の子ができて小さいながらも本屋さんを経営。そこにナチ・ドイツ軍が進攻し、3人は強制収容所に収容される。父子と母は別に収容され、なんとしての母の元に返したい父親の採った手段は・・・というコメディ&ヒューマンエンターテイメントです。

前段はユーモアたっぷりに二人の出会いが、ファンタジーでコミカルに描かれます。後段、強制収容所に収容され、状況は一変。暗い生活のなかで、数々のナチの非業に耐え、収容所を出る日を夢見ながら過ごす家族の姿が描かれます。前後段のチェンジの切り替えが絶妙で、後段のナチの非業が強烈に浮かびあがります。
強制収容所での父親のドイツ語通訳のシーン、腹を抱えて笑いました。これ、チャップリンの「独裁者」を観る思いでした。父親の謎かけがこんな結末になるとは・・・!脚本の魔力です

笑のなかにナチの行った虐殺を描写して、二度とこのような迫害があってはならないと戒める本作、何度も何度も繰り返さねばならないキャンペーンにこの手があったかと思わせる作品!見事でした。

ロベルト・ベニーニ監督のエンターテーナーとしての圧巻のパフォーマンスに驚かされました。ジョルジョ・カンタリーニの可愛さ。母親がロベルト・ベニーニの実の奥さんとは!

監督・脚本:ロベルト・ベニーニ、撮影:トニーノ・デリ・コリ、音楽:ニコラ・ピオバーニ。
出演者:ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ジョルジョ・カンタリーニ、ジュスティーノ・ドゥラーノ、セルジョ・ビーニ・ブストリッチ、リディア・アルフォンシ、他。

本作は第51回カンヌ国際映画祭(1998年)で審査員グランプリを受賞。第71回米国アカデミー賞(1999年)で作品賞ほか7部門にノミネートされ、そのうち、主演男優賞、作曲賞、外国語映画賞を受賞しています。

感想(ねたばれ含む):
テーマは「ライフ・イズ・ビューティフル」。人生には上手くいかないことが付き纏うが、やりようでいくらでも幸せになることを教えてくれます。美しい妻をどうやって手に入れた?二人の間に出来た子供を、最悪のナチの迫害から、知恵と笑いで守ることができることを示してくれます。愛する子供を天国で微笑んで見ているでしょう。“彼の短い人生は美しかった!”

「これは素朴な物語であるが語るのはむずかしい童話みたいで、切なくて驚きと幸せが詰まっている」で始まる、息子ジョズエの幼いころ父と強制収容所にいた記憶。ええっ!という出だしです!

1939年、イタリア。ユダヤ系イタリア人のグイド(ロベルト・ベニーニ)は友人フェルッチョ(セルジョ・ビーニ・ブストリッチ)と共に北部の田舎から山岳道をしゃれた車で叔父ジオを頼って、トスカーナ地方のアレッツォという小さな田舎町に目指していた。とても美しい風景です!

ブレーキが利かない。山岳道でブレーキのベーパーエアロック?修理中に屋根から落ちてきた美しいドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)。これが運命というものです。これをうまく生かすのがイタリア人。(笑)蜂に刺されたドーラの脚の傷口を吸って治療した。これが彼の運命を開くことになった。彼女を“お姫様”と呼ぶ。すったもんだがあって、二度目は盗んだ自転車でお姫様にぶち当たった。(笑)
グイドは叔父のレストランでボーイとして働くことに。料理の運び方やメニューの採り方はもうチャプリンを彷彿とさせます。ここで彼の特技はクイズ。ドイツ人医師レッシングに「白雪姫に7人の小人が遭遇する時間は?」と問題を出し、悩むレッシングに答えは「7”ミニ”ッツ」と明かしてすっかり虜にした。

客の視察官が姫・ドーラの学校を視察するという。あの姫は学校の先生。この繋がりも運命。レッシングに先立ち、視察官に化けて学校でドーラに挨拶し日曜日の歌劇観劇を聞き出す。そして、イタリア民族がいかに優れているか、裸になって具体的に体の特徴を示しながら熱弁を振るう。これにはドーラも驚くが、彼女の記憶に残ります。(笑)

そして歌劇鑑賞に劇場に潜り込むがドーラは2階席、隣の女性に愛嬌を振りまいた・・・。(笑)  婚約者ロドロフに置いてきぼりを喰わされ、雨で困ってるドーナを車で送ると、ドーナはしゃっくりばかり、そのうちに話が弾んで車が衝突!(笑)

ホテルでのドーラの婚約披露宴。披露宴開始前に、伯父が通勤用に使ってる馬がグリーンに塗られて“ユダヤ馬に注意”と嫌がらせが発覚。ユダヤに対する嫌がらせだが、グイドは差別なんぞ洗えばいいと気にしない。

2結婚式
約者ロドロフは町の役人で美男子だが自己中な男で仕事の話ばかり。うんざりしているドーラ。グイドはテーブル下に潜り込んでドーラに近づく。こんなグイドにドーラがキスして「連れ出して!」。気づかないのは婚約者。落書きされた伯父の馬に乗って現れドーラをかっさらって、この場を自分とドーラの結婚式にしちゃった。(笑) これ反ユダヤ人に対する最大の皮肉!このシーン、映画「バード」(1988)でチャーリー・パーカーが使った手でしたね!

ドーラを連れて伯父の家に帰るが、鍵が見つからない。もたもたしているうちに彼女は隣の屋敷に入っていった。追ってグイドが入ると「ジョズエ」のというドーラの声。ふたりが出て来たときには、時が経て、息子のジョズエ(ジョルジョ・カンタリーニ)と一緒だった。うまい時の経過の描き方です!

人生にはいろいろと邪魔が入る!これにあつかましく挑み、ひっくり返せと教えてくれます。(笑) イタリア流ですね。私のイタリア人の友人もこの典型でした!
3幸せな家族

妻ドーラとジョズエを自転車に乗せて自分の作った本屋に出勤。これが幸せいっぱいのポスター写真です。妻が途中で仕事場に。
ジョズエは戦車遊びに夢中だった。ふたりでいるところにゲシュタポがやってきて、強制収容所行の列車に乗せられる。伯父も一緒だった。ジョズエは初めての列車の旅。「列車は座らない!やっと切符が買えたんだ!」と教えているところに、ふたりがいないことに氣づいたローラが追ってきて、「私も強制収容所に!」と列車に乗り込むが、別々の車両だった。
4収容所

強制収容所の中は数段のベット。すでに沢山のユダヤ人と一緒になった。怖がるジョズエに「ここにはここのゲームルールがあるんだ。人に見つかったり泣いたりして見つかったらゲームオーバー。だけど隠れ抜いたら点数がもらえるんだ、1000ポイント溜まったら戦車がもらえるよ!それで家に帰れる」と教えて毎日毎日このクイズに挑むことにした。絶望のなかでも夢を持てれば生きれることを教えてくれます。

そこにドイツに将校がやってきた。通訳がいない。グイドがかって出て将校の話を訳して伝える。「ゲームは全員参加だ。1000点取れば戦車が貰える、本物だ。得点はあの拡声器で流す。我々は悪役だから怒鳴る。怖がると原点だ!原点はます泣き出すやつだ!・・・」。 (笑)  役に立たないと女性と子供がガス室に送られていると聞いてドーラが心配する。

伯父と一緒に強制労働に駆り出されるが、戦車を作っていると誤魔化し、部屋に戻っては今日貰った点数をジョズエに話して励ました。
ジョズエは風呂に入れて勧められても、父親恋しさにグイドの、職場に来る。逃げ出していて、ジョズエは一命を取り留めた。親父はガス室で処刑された!こういう“悪夢の歴史的事実”を知らしめるよう作品は作られています。

ある日警備員をごまかして放送室に入り、女性ユダヤ人に向けて、自分たちは生きているとドーラにサインを送った。ドーラは処刑された人たちの衣類を整理する仕事をしていて、この放送でふたりが生きていると知って涙を流した。

グイドは健康診断で、もうちょいのところでガス室に送られるところで、ドイツ軍軍医となっていたレッシングに出会った。

ジョズエは人の体から石鹸やボタンを作っているという話を聞いてすっかり怯えて姿を見せなくなった。
レッシングに取り入りドイツ軍士官歓迎会のボーイにつけてもらった。友がなく寂しがるジョエズをここに連れてきて「ゲームだから誰とも話すな!」とドイツ人の子供たちに会せ、美味いものを食べさせ、クイズへの競争心を煽った。(笑)  レッシングから「デブで醜くて黄色でどこにいるかと聞くとココ ココと答える。歩きながらウンチをする。わたしは誰だ?」と謎を掛けて、これで困っているという。これは嫌味な謎かけですね!グイドは妻を励まそうと蓄音機で昔踊ったレコード曲を流したりもした。

監視が厳しくなり、ジョズエに「見つからなければ勝てる」と徹底的に隠れることを命じた。そんな時に終戦の前兆を知る。やつらは殺しにやってくるとグイドはジョズエをゴミ箱の中に隠し「誰もいなくなったらお前が一番だ!父がいなくても出ていい」と教えてドーラを探しに出た。ドイツ兵に追われてゴミ箱の前を通るとき、ゲームだとお道化た姿をジョエズに見せながら笑って消えてゆき、ジョズエの見えないところで射殺された。
5本物の戦車

誰も居なくなって、ジョエズが道路に出ると本物の連合軍の戦車がやってきた。お父さんが言ったとおり一等賞で、戦車のプレゼントだったと喜んだ。この戦車に乗せてもらって行進中に母ドーラに出会って「僕一等賞だよ!」。

「ドーラ生きろ!」と励ますグイド、自分の身を投げ出して息子ジョズエを救ったグイド。このタイトルにこの落ち、イタリア人にしてやられたという感じです!(笑)
                   ****

「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」(2019)ドンデン返しに、どんでん返し。犯人捜しだけのミステリーではない!

1ポスター

犯人捜しが9人の中からだと、これは堪らないとWOWOW公開を待っていました。やっと公開されての観賞です。1回で理解するのはちょっと大変でした。(笑)
キャッチコピーは「あなたは、『この結末を“誤訳”する』ですが、誤訳してなければよいがと思っています。(笑) 犯人捜しだけのミステリーではないぞ!でっかいテーマが隠されていました。
この作品を観る場合は作品のホームぺージに目を通しておくとよいと思います。キャラクターの名前がしっかり頭に入ると本当の面白さが分かると思いますから、9回は観る必要がある作品だと思います。(笑)

作品は世界的ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」をはじめとするダン・ブラウンの小説「ロバート・ラングドン」シリーズの出版秘話をモチーフにした作品とのこと。
監督:「タイピスト」のレジス・ロワンサル。脚本:レジス・ロワンサル、ダニエル・プレスリー、ロマン・コンパン、撮影:ギヨーム・シフマン、音楽:三宅純。
出演者:
出版社社長:エリック・アングストローム(ランベール・ウィルソン)
エリックの個人秘書:ローズマリー・ウエクス(サラ・ジロドー)
書店経営者:ジョルジュ・フォンティーヌ(パトリック・ボーショー)
英語の翻訳者:アレックス・グッドマン(アレックス・ロウザー)
ロシア語翻訳者:カテリーナ・アニシノバ(オルガ・キュリレンコ)
デンマーク語翻訳者:エレーヌ・トゥクセン(シセ・バベット・クヌッセン)
スペイン語翻訳者:ハビエル・カサル(エドゥアルド・ノリエガ)
イタリア語翻訳者:ダリオ・ファレッリ(リッカルド・スカマルチョ)
ドイツ語翻訳者:イングリット・コルベル(アンナ・マリア・シュトルム)
中国語翻訳者:チェン・ヤオ(フレデリック・チョウ)
ポルトガル語翻訳者:テルマ・アルヴェス(マリア・レイチ)
ギリシャ語翻訳者:コンスタンティノス・ケドリノス(マノリス・マヴロマタキス)

あらすじ:
舞台はフランス。大ベストセラーミステリー三部作の完結編「デダリュス」(400ページ)を短期間で翻訳し世界同時発刊して大儲けしようと企んだ出版社社長が、9か国に堪能な翻訳者を、絶対に秘密がバレないようにと豪邸の地下シェルターに集め、厳重な監視のもとに翻訳作業を始めた。ところが20ページ翻訳したところで漏洩し、24時間以内に要求額が支払われない場合にはさらに100ページを公開するという脅迫メールが届く。
社長はたかを食って翻訳を止めて翻訳者9人への徹底的な私物検査、脅迫で自供を促している中で、自殺者、仲間割れが現れ、さらに200ページを公開するとのメールが入る。この状況で翻訳者のひとりが名乗り出た。お前は何者か?何のためにやったか?

感想(ねたばれ含む):
冒頭、ロンドンにあるフォンティーヌ書店が火災で焼失するシーンから始まります。その原因は明かされない。アングストローム社長・エリックがフランクフルトのブックフェアで「デダリュス」完結編「死にたくない男の話」を12月に翻訳して3月に発刊すると派手に公表。これにより、翻訳者たちの招集が始まる。

エレーヌは空港で小さい子供を夫に託して「小説を書いてくる!」とコペンハーゲンを出発。リスボンではテルマが「正業では食えないからパリで働く」と出立。ここでのテルマ:マリア役のレイチはゼンダーで、とてもチャーミングです。カテリーナ役オルガ・キュリレンコの優雅なファッションにも注目です!

ダリオには出版社から空港に出迎えが来ている。アレックスはパリ駅前のベンチで小説「デダリュス」を思い出しながら寝ていると出版社の車にピックアップされ、次々と9人の翻訳者がパリの大邸宅に集められた。秘書のローズマリーに導かれて警備員と厳重なセキュリティに守られた翻訳室に入った。
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いよいよ翻訳作業の開始。エリックの指示で作業が始まると、ケドリノスは部屋で作業したいと申し出るが不許可。ハビエルの作業が早い、テルマは翻訳に手を付けず悠々とタバコをふかし注意される、アレックスに至っては持ち込んだスケボで遊んでいる。チャンがその若さでなぜ参加とアレックスに問うと、一度インターとして参加していたという。
3マルテ

翻訳者たちのどの行動にもテーマに絡むとても大切な情報が含まれていて、“キャラクターの描き方”がとてもうまいです。何度も見たくなります!

作業が始まって2か月後の状況に突然跳ぶ。
エリックが刑務所に面会にやってきて「お前の行動(漏洩)で大損害を被っている。この書物「デダリュス」の中に答えがある。君はどんな手を使ったか?」と問い詰める。犯人は翻訳者のひとり、姿を見せてくれません。これにはびっくり! ここで犯人は分かったという人がいるかも知れません。しかし、この物語はそんなに軽いものでなく、最後には頭をぶん殴られた感じになります。(笑)

ここからセルター内での翻訳者の行動と刑務所での犯人とエリックのやりとりを交差させながら、誰が?どうやって漏らしたか?その目的は?と探っていく展開になります。囚われの身が途中で逆転するという大どんでん返しがあるという、絶対に予測できない展開が面白です!

作業は朝9時からよる8時まで。稼業外はプールや映画、読書などで過ごす。
食事時にはアレックスやテルマの太々しい態度や翻訳文のヒロイン・レベッカの死因、主人公デダリュスの行動、これからの物語の進展が話題となる。デダリュスの物語が“事件に絡んでくる”から怖い。“デダリュス物語”の会話が延々と続き眠くなりますが、ここが我慢のしどころです。(笑)

エリックに呼ばれたエカテリーナ。隙を見て彼のバックから翻訳文を盗もうとするが失敗。彼女は熱烈な「デダリュス」フアン。先を知りたくてうずうずしている。そんな彼女をレベッカに似ていると小説発刊時のキャンペンガールに指名する。
こんなエカテリーナは夜、レベッカが溺死した心境を知ろうとプールの底に沈んで居るところに、危ないとアレックスが飛び込んでくる。アレックスは「“耐えがたい喪失と悲しみ”を描いた物語だと教えると、エカテリーナが「アングストロームはそんなこと知らずメディアに低俗なものを紹介をしている。金儲けのためなら何でもやる人だ」と非難する。こうして、翻訳者たちのあるべき姿が語られ、エリックの行う翻訳作業に疑念をもっていることがわかる。

クリスマスの夜、晩餐、ボーリングで盛り上がり、「デダリュス」の冒頭の一節をチャンが歌い始め、全員で唄ってはしゃいだ。
4晩餐会

そこにエリックの携帯に「デダリュス」の第3巻冒頭10ページが流出したというメールが入り、警備員はテルマを襲い、チャンに疑惑が掛かる。翻訳者たちの私物が徹底的に調べられる。遂にエリックが拳銃で脅して自白を促す。
5犯人は誰だ!

エレーヌのスーツケースからオランダ語で手書きの文章が発見された。エレーヌは「デダリュス」とは全く関係のない今自分が書いている小説の一部だと釈明したが、「あんたにその能力はない」と全員に前で罵った。「子育てで書けなかった小説が書ける、人をこれで喜ばせる」と考えて参加しただけにエレーナのショックは大きかった。

翻訳仲間の中でも誰だ?と疑心暗鬼になっていく。カテリーナがアレックスの翻訳にはエリックの翻訳本と違うところがあると疑念を持った。アレックスに「なぜ違うの?」と尋ねた。
実はアレックスは海賊版出版の罪で逮捕され、エリック翻訳が不適切とクレームをつけたことで、ふたりはロンドン警察でやりあっていた。アレックスが自分の翻訳の方が読者には受けているから次作では雇って欲しいと、第3巻の冒頭は予想して喋ると、これを聞いてエリックは彼を雇うことにしたのだった。「だからエリックは俺を犯人だと思っている」とカテリーナに語った。

エリックはローズマリーに「お前の文学への愛を証明しろ」とロンドンのアレックスの住み家捜査を命じた。ローズマリーはそこでパソコンと、アレックスとジョルジュが写っている写真を見つけた。

そこに「エリック時間切れだ!残りを救いたけれ8000万ユーロ払え!」とメールが入り、エリックは皆を裸にして検査するという行動に出る。これに仲間の中で犯人捜しが始まった。カテリーナの言動、レベッカファッションに疑念を抱いたダリオがお前だ!と襲い掛かり、これを止めに入った仲間と大乱闘になった。この騒動でエリックは照明と食事を断つという行動に出た。エレーナが自。皆が泣いた。
6団結

刑務所でのアレックスとエリックのやりとり。
アレックスが「刑務所にいるのはあんだ!」と言えば、エリックは「あの出来事は正当防衛だった」という。アレックスは原作者オスカル・ブラックに会わせろとエリックに迫る。

なんだ!“犯人がエリック”になっている!エリックが犯人となりアレックスは面会に来ていた。このどんでん返しには驚きました。予測不能です。

アレックスが原稿漏出のトリックを喋る。

セルターに集まる前に、エレーネ、ダリオ、ケドリノスを覘く6人に、エリックの言いなりでない創作作品としての翻訳をすべきだと説いて、盗めるチャンスのある通勤電車のなかで原稿を盗むことを説き、彼らは実行した。そこにはもうひとつのトリックがあった。原稿のコピーにはアレックスが持っている原稿を使った。そして6人がこれを読んだ!

なんだ、これは!何を見せてくれていたんだ監督は?エリーナが亡くなるまでの行動は6人による共謀だったのか!

亡くなったエレーナへのエリックの非常な取り扱いに、翻訳者たちと警備員が怒り出し、翻訳者たちがそれぞれの“母国語で会話し連携”して反抗するので、もはやエリックは彼らを押さえることができなくなり、カテリーナ、アレックスを撃った。カテリーナは入院、アレックスは胸に入れていた「デダリュス」で難を逃れ、エリックは警備員に捕らわれ、警察に渡されたというわけ!

“アレックスこそが「デダリュス」の原作者オスカル・ブラックだった”。彼を小説家として育ててくれたのがジョルジュで、冒頭の火災はエリックがジョルジュを殺害して火を点けたものだった。
エリーナが亡くなるという突発事件以外は、アレックスによって仕組まれた恩師ジョルジュを殺したエリックへの復讐劇だった!ちょっとやり過ぎ感ありのどんでん返しでしたが、先の読めないうまい筋運びでした。

どんなトリックを使ってくるか、アクションは?怖いシーンは?と期待したが、これがない!大部がシェルター内での会話劇で眠くなる(笑)。ところが彼らが喋る感想が小説「デダリュス」のストーリーで、このストーリーを実行してエリーナを貶めたというアレックスのエリック復讐劇の“筋立て”が凄い!

エリックを貶めたのは、翻訳者を閉じ込め家畜のように扱い、翻訳者としての創作意欲を、さらに原作者の尊厳を無視したことへの抗議だった。大きなテーマのあるミステリーというところがすばらしかった。
              ****

「ヤクザと家族 The Family」(2021)ヤクザ映画だがヤクザ映画ではない、法規制で消えていく「ヤクザ家族」の物語!


1ポスター
「新聞記者」「宇宙でいちばんあかるい屋根」の藤井道人監督作であること、綾野剛さんの出演に期待して本作を鑑賞することにしました。期待したとおりの現代社会の矛盾を突き、愛に溢れた作品でした。そして圧巻の綾野さんの演技を観ることができ、大満足の作品でした。

父親の麻薬で家族が崩壊し自暴自棄に過ごしていた少年。地元のヤクザ親分に手を差し伸べられ、親分と父子の契りを結び「ヤクザ家族」の一員となり、好きな女性に出会った。こうしていっちょまえのヤクザになったが、1999年地域のヤクザ抗争に巻き込まれ、「ヤクザ家族」を守るため、自ら身替りとなり14年間の刑を終えて世間に戻ると、暴力団排除条例の施行で、「ヤクザ家族」は崩壊寸前、再会した彼女との生活も世間から排斥され、自分の居場所がないことを知る。平成生まれのヤクザに出会い、彼が選んだ生き様は・・・というヒューマンエンターテイメント作品です。

古いヤクザ気質の人情仁義に熱い親分、平成ヤクザとして生きた男、平成生まれで令和に生きるヤクザ。三代にわたるヤクザの生き様を、家族という視点からとらえた情感豊かなドラマです。ヤクザ抗争アクションも、これまでに観た作品に劣らない、こんな撮り方があるのかという迫力あるものに仕上がっていて楽しめます!

見どころは家族になっていく過程が、“これが家族だ!”と納得が出来るよう丁寧に描かれています。それだけに後段の居場所のない男の寂しさ、人生において何が大切かを考えさせてくれます。

暴力団排除条例は彼を追い込んでいった。14年の刑を終え、ヤクザを辞めても普通の人にはなれなかった!彼だけでない、妻も娘も追い込まれる。ここで選んだ決断はヤクザらしい愛に満ちたものであったと泣けます。

彼らが救われることはないのか!もっとやさしい社会であって欲しいと願わずにはいられない作品でした。この視点は現在のコロナ禍でも見られ、今の時点で公開してくれたことに意義があります。

監督・脚本:藤井道人、撮影:今村圭佑、音楽:岩代太郎、編集:古川達馬。
出演者:綾野剛、館ひろし、尾野真千子、磯村勇斗、寺島しのぶ、北村有起哉、市原隼人、岩松了、豊原功補、駿河太郎、他。

あらすじ(ねたばれ):
1999年、白いノースフェースの上下に白いナイキのスニーカーに金髪のチンピラ山本賢治(綾野剛)が麻薬常習犯だった父の葬儀に駆けつけとけると、そこで県警組織犯罪対策本部刑事大迫(岩松了)から「お前も父親のようになるか!」と悪態を浴びせられる。チンピラ仲間の細野(市原隼人)に呼び出され、仲間の大原(二宮竜太郎)を加えて、父親を薬漬けにした新興の経済ヤクザ・侠葉会の薬売人の車を襲って薬を奪い金に還元。山本のチンピラいでたちに圧倒されます。
2中華店

山本ら3人は馴染みの中華店で焼肉を食っていた。そこに地元のヤクザ柴咲組の親分・柴咲博(館ひろし)と若頭の中村(北村有起哉)が飯を喰いにやってきた。女将の木村花子(寺島しのぶ)の夫は柴咲組の元若頭で侠葉会に殺されていた。柴咲は気さくで組員の世話をよく見る親分だった。そこにチンピラが駆け込んできて柴咲に拳銃を向ける。咄嗟に山本が蹴りを入れこの危機を救って、そのまま店を出た。
恩義を感じた柴咲は配下に命じて山本を呼び出し、仲間に入らんかと誘った。薬は取り扱わないし、義理・人情のある男磨が出来ると誘ったが、山本は断った。

山本ら3人は薬を奪ったことで侠葉会に捕らわれ、徹底的に虐められ、香港へ売り飛ばすと港に着いたところで、山本のポケットから柴咲の名刺が侠葉会若頭の川山(駿河太郎)の目にとまり、柴咲組との取引に使われ、解放され柴咲の元に返された。ここでの柴咲の痛められ方、その傷の痛々しさ、絶望感がしっかり描かれ、柴咲に救ってもらったことへの恩義が伝わってきます。
柴咲は侠葉会との間で何があったかなど話さず、「よく頑張ったな!」とやさしい声で髪を撫でた!山本は泣いた!山本が俺の親父はこの人、何があっても守ると決めた瞬間だった。言葉でなくふたりの表情で読み取れ、親子になったという説得力のある描写で涙が出ます。
3よく頑張った

山本は柴咲と親子の盃を交し、いっぱちのヤクザになった。

2005年、山本は背中に立派な彫り物を背負っていた。このころ侠葉会と柴咲組の戦争勃発が噂されるなかで、トラブル解消に駆けつけたクラブで侠葉会の若頭川山に出会った。川山が「時代遅れの老人は引退してくれ!取り残されるぞ!」と山本に吐いた言葉で、山本はビール瓶で川山の頭を殴った。これが引き金となって、対立が激化していった。それでも柴咲は山本を責めることはなく、まるで我が子のように接していた。

山本は川山を殴ったビール瓶の破片で怪我し、その手当てしたのがホステスの工藤由香(尾野真千子)だった。由香は学費稼でキャバレー務め、純粋で勝気で山本を寄せ付けなかった。由香も山本同様に両親を亡くして家族がなかった。しかし、由香は山本が真っすぐな男で、遊びでつき合っていないことを知り次第に心を開いていった。
4由香との出会い

遂に柴咲の車が侠葉会により襲撃され、運転していた大原を失うという事態に陥った。同乗していた山本は負傷し、大原の死をまるで兄弟を失ったように悲しんだ。大原の葬儀に大迫刑事がやってきて柴咲に町の南部から手を引けという。柴咲は反対した。これを山本は聞いていた。大迫はこの地域に紛争が起きなければいい主義で侠葉会に肩入れしていた。

山本は拳銃を持って、女と寝ている侠葉会会長の加藤(豊原功補)を襲ったが、そこに兄貴の中村が現れ短刀で加藤を刺した。柴咲を支えられるのは兄貴だと山本は中村の短刀で何度も何度の加藤を刺した。
血飛沫を浴びた姿で由香のアパートに現れ、震えながら泣くという無様な姿を見せた!この姿を見た由香は山本の全てを受け入れた。柴咲は「親不孝者が!」と言いながらやさしく抱いて、警察に送り出した。

2019年、山本が中村の出迎えを受けて戻ってきた。しかし、柴咲組の事務所は閑古鳥が鳴く有様で、組員は辞めて行ったという。痩せ衰えた親分が「ごくろうさん!ごめんな!」と迎えてくれた。親分はガンを患っていた。

ヤクザの本義を守ってきた中村がヤクの売買で組を支え、薬使用者に堕ちていく。辞めた組員は密漁などの闇商売。細野は産廃事業所に職を得て家族を持っていた。山本を避けるような態度をとる。
暴力団排除条例が施行されたことで、携帯は持てない、銀行・保険証をもつまでに5年かかったという。家族は暴力員であったことがバレたら世間の非難に晒される。

愛子の中華店を訪ねると、昔面倒をみていた翼が昔の山本そっくりの金髪ヤクザになっていた。(笑) 愛子は昔のようにやさしく山本を迎えてくれた。

由香は市役所で働いていた。会うと、娘・綾(小宮山莉渚)がいると告げて、金を渡して「来ない!」でという。山本は娘が居ることに驚き、ヤクサを辞め、細野のいる産廃事務所で働くことにして、由香の家に入れて貰った。
5翼

翼のシノギはかっての山本らのやっていたものと変わらないが、“義理人情だけでは食えない。あんたたちとはやり方が違う”と侠葉会の誘いを断り、“開かれたヤクザ”を模索していた。こんな翼に大迫刑事が「親父と同じ目に遭うぞ!」と近ずく。翼が「俺は感謝している」と山本の写真を見せ、「あんたたちが町を壊した」と罵った。これに恨みを持った大迫が山本、細野の素性をネットに流し、2人が産廃場から追われ、由香も市役所を、娘綾は学校を辞めて家出。由香が「あなたは何故帰ってきたか」と山本に問うたが、何も答えず家を出た。

山本が中華店を訪ねた。翼が「父を殺したやつが分かった!親分が弱ってる」という。山本は「愛子さんを大切大事にしろ!」と翼に言い、親分の病床に駆けつけ柴咲に別れの挨拶をした。「愛子さん」に由香を重ねていた!

夜、山本は由香に電話したが不在なので留守電にメモを残した。「普通の自分になり、普通の生活をしたかった。それが傷つけた。綾を産んでくれてありがとう。愛している!」。

山本は、翼が復讐したいと漏らした相手を刺し、防波堤で海を見ているところを細野に「あんたが戻っていなければ・・」と刺され、「ごめんな!」の言葉を残し、海に落ち沈んだ。後日、翼と綾がこの防波堤を訪ね、花を手向けた!「あんたヤクザ?」「ヤクザなんて食っていけない!」「兄貴ってどんな人だった?」。

感想:
ヤクザ映画だがいわゆるヤクザ映画ではない、法規制で消えていく「ヤクザ家族」の物語りだった。
冒頭で海中に沈み山本の姿が、ラスト近くで大原に刺されて海に落ち沈む山本に繋がり、次に生まれてくるときは“ヤクザではない”という山本の強い想いが伝わってくる作品でした。この想いは令和のヤクザ・翼に、そして父の実像を知らない娘・綾に引き継がれるといううまい演出でした。山本の「普通の自分になり、普通に暮らし、家族を持ちたかった!」の言葉に泣けます。

海と煙突の見える街。遠方の山並みは駿河湾に落ちる伊豆の山並み。ロケ地が富士市、静岡清水区一帯?清水次郎長生誕の地、ナイスなロケ地選定でした!

時代が変化する度に出てくる煙突は富士市の製紙工場のもの? ここにしがみついてしか生きることが出来ないヤクザの宿命を表現しているようですが、ここはかって煙公害で苦しんだ地。いまではきれいな煙が流れています。ヤクザの移り変わりを暗示しているようで、翼がどのようなヤクザを目指すか、見ていたいですね。磯村勇斗さんの清々しい演技とともに!

綾野さんと館ひろしさんのヤクザ親子。持てるエネルギーを吐き出すやんちゃなチンピラから、ドスの利いた生気を漲らせ家を守るヤクザを経て、家を亡くし彷徨する山本へと変化する綾野さんの演技。そして、義理人情まるだしでだが、いざとなれば燃える狂気を秘め、時代を受け入れようとする枯れヤクザの館さんの演技。すばらしかった!時代に翻弄されながら、最後まで変わらなかったふたりの親子愛が堪らない。

山本と由香の結びつきがとても丁寧に描かれ、家族を亡くしていた者同士の結ばれ方で、由香は山本がヤクザだからと聞いて“びくつく”女性ではなかった。ふたりの演技にその心情がよく表現されていた。
しかし、山本の素性がバレ、市役所を辞めさせられ娘を失ったことで、由香は「なぜ戻ってき来た?」と山本に言葉を投げたが返事がなく、「出て行って!」の言葉を発した。山本は何も言わずに家を出て行き、由香は家族を解消した。山本の由香への愛は透けて見えるが、言い出せなかった心情に泣けます。が、山本は弱すぎた!

映像が美しく迫力があった。前段のヤクザの抗争劇。激しい動きを捕えた迫力あるシーンが楽しめるよう画面をシネマスコープにして移動カメラを多用し、後段の消えゆくヤクザの姿を抒情的に描くためにビスタービジョンで撮る、またカメラアングルの面白いものが多見され、カメラマンの苦労が伺える映像でした。

強い法規制で一気に追い込めば、時流に乗れず、行き場を失う人が出てくる。基本的人権さえも奪ってしまう現況には、社会としてのやさしさが求められます。
                   ****
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